カテゴリ:■最高のスーツ( 3 )

11月2日(晴天)   最高のスーツ3







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(つづき)


その日、銀座は充分な陽光が街に溢れているわりには肌寒かった、秋から冬へ向かおうとする街には人をノスタルジックにさせる魔法がふりかけられている、こんな日に、記憶の遠くにある草原とそこに咲く草花を思い起こさせるツイードの冬服をとりにいくのもふさわしい、


傷ついた自慢の木の文句のひとつも云いたいところだったが、ブロンド美人の笑顔にはやはり勝てなかった、

階下に下りると、テーラー氏と職人さんが、うやうやしく出来上がったスーツをトルソーにかけて私を待ち受けていた、

トラウザーズには、預けておいたシルクのパープルの水玉模様のブレイシーズがきちんとプレスされて既にとりつけてある、

ツイードにもかかわらずシルクのような履き心地に驚き、トラウザーズをよく見ると裾までフルライニングになっている、ロングホーズを履いていても変にすそで絡まることもなく、ストンと腰から裾に向かって優雅に落ちていく、クリースはあのパープルのウインドウペインのラインにそって慎重に折られ、腰周りにはシルクのライニングがはってあって驚くほど柔らかく仕立ててある、トラウザーズのサイドには側章のようにシームがいれられ、その両脇には細かくハンドステッチが配されている、驚いたのは腰で切り返しがなく、美しいウインドウペインは、切り替えしに妨げられることなく腰まで伸びていくことで、テーラ氏は切り返しのあるトラウザーズは、クラッシックビスポークではないと忌み嫌っていた、



ダブルブレストのウエストコートを羽織ると、ぴたりとトラウザーズの腰まわりに沿っていて、これだけで美しいクラッシックだと思った、ウエストコートの背には少しダークなパープルの厚手のシルクツイルがはられていて、それも趣き深い、

テーラー氏がうやうやしく上着を着せてくれる、優雅になで肩を描く肩、そこから胸のボリュームがあり、ウエストへとシェイプしていくイングリシュドレープ、ダブルのウエストコートだけど、今回はテーラー氏のアドバイスに従って、あえてノッチドラペルのふたつボタンにしたのが、かえってこの生地とスタイルを生かしたように思う、

アルパカが入った本格的なツイードはビンテージでも珍しいという、それも色違いの2~3種でなく、30~50種の少し思い切ったデザインまでもが揃っていたので、正直、ひとつに決めるのに迷いに迷った、テーラー氏は、愉しそうに、よけいに迷うようなことを云う、迷ってください、それがビスポークの愉悦です、

それは驚くほど柔らかく、アームホールと仕立てのマジックで、違和感なく体の一部になってくれる、これなら、デイナーのときも、オフィスでも一日中、着ていることを忘れることができるはずだ、思いのほかパープルのウインドウペインが上品に見え隠れして効いている、

プリンセスのキスを待ちわびていたカエルが、やっと王子の姿に戻れた気分で鏡を覗きこんでいる私のそばで、テーラー氏と職人さんは細部にわたって、もう一度修正が必要な箇所はないか、最後のチェックに余念がない、

そして、ついにテーラー氏はリーデインググラスを外すと、「問題はないようです、、」と頷いた、良いタイミングで、私のプリンセス、ブロンド美人が茶を運んでくる、今日は煎茶か、その清清しい後味がいまの気分にふさわしい、

ツイードのスーツは、折角、このまま着て帰ることにした、テーラー氏は、私が着てきたスーツをガーメントケースに収めながら、絶対にドライクリーニングに出さないこと、ブラシも極力あてず、プレスはこちらでいたしますので、ご自宅でのアイロンはご不要と存じます、など諸々注意をこと細かく説明する、

私は、この前の仮縫いのときから気になっていたゴールデンフォックスのネイビーチョークストライプのビンテージフラノで、今度は、ピークドラペルの三つ揃いを頼み、ブロンド美人との縁に一縷の望みをかけることにした、


三人に見送られて、外にでるともう陽が落ち始めていた、歩き始めると頬にあたる空気が思いのほかひんやりしている、ツイードスーツを着て帰ることにしてやはり良かった、ビルの硝子窓に映る姿に少し嬉しくなりながら、家路を辿るにはまだ時間がある、今日は銀座をそぞろ歩くかと思った、

それにしても、矢文もよしてくれといったときにテーラー氏が何故かニヤリと笑ったのが、どうも気になるのだが、、、



これが、まあ長くなりましたが、私にとっての「最高のスーツ」です、

そして、「最高のスーツをつくるには、やはり才能と経験と努力がいる」と一度は書いてみましたが、よく考えてみれば、むしろ「当たり前」のことを積み重ねていくことなのだなと気づきました、



21世紀はリアルな社会になってくると思います、「当たり前」を積み重ねるというのが、これからのスタイルだと思います、それが大切で、ウソは通用しなくなります、


「バンチにとらわれない、足と目で探した良い生地が迷うほど豊富にある、」

「充分経験を積んだ補正能力にも長けた、優れたテーラリング技術がある、」

「クラッシックなスタイルを包括する知識と、豊かな美意識がある」

「丁寧にスタイルをつくっていく、仮縫いの労苦を厭わない」

「そして、値段が適正である、」

「おまけで、テーラーが話題豊富で、自分の人生に彩りを加えてくれる」


これらは、シンプルに当たり前のことです、


例えば、バンチよりも、ちゃんと店主が目と足で選んだ生地が揃っているべきです、

ここでは、「目と足で選んだ」というのが重要で、ビンテージならなんでも良いというわけではありません、
しっかりしたプレイドのツイードが、紳士のワードローブに必要だと思うこそ、そのバリエーションと質を追求したコレクションを揃える、良い本格的なチョークストライプに想いがあれば、納得するものを何度も試作し織らせる、自分の仕事とクライアントを思えば、これが当たり前です、


「現行のバンチ」は、リスクは少ないでしょう、極論すれば何種類かのバンチを揃えれば格好がつきます、インスタントにテーラーのフリができます、しかし、それでクライアントに判断を押しつけるのはどうなのかなと思います、バンチで判断するのはプロでも難しい、
なにより、今のミルのバンチの品揃えは限られていて、どこのミルも似たり寄ったりで、選択の幅はそうない、自分で選ぶとしたらそう魅力的なものはあるように思いません、これに頼るのはテーラーとしてはどうなのかなと思います、まともなツイードの品揃えさえ限られています、


テーラリングについても、やはりすぐれた補正の能力をもつには30年以上の経験が必要だと思います、テーラーは経験です、そしてどの分野でもそうですが、優れた人は数少ない、私はテーラリングについては厳しいので、ハタチ前後から始めたとして50歳ぐらいからがテーラーのピークだと、経験上思っています、
これも、考えれば当たり前のことです、


良い職人さんほど、一生が勉強ですと云われます、これは、ある程度、実力があって自信のある人じゃないといえない言葉だと思います、そうじゃない場合は、寝る間も惜しんで勉強してください、厳しく言うといまのサビルローでも、人材不足から実力が伴わないような場合もあるような気もします、


それと、やはり愉しさ、魅力ですね、クラッシックというのは奥が深い、意外にスタイルの幅があって愉しく長持ちする、先ずはここを押さえるべきだと私は思っています、
テーラーはクラッシックを知り尽くしていなければなりません、これも当たり前のことです、


しかし、これは、案外に日本、或いは現在においては未経験の「分野」に近いのかもしれません、ここしばらくで、まともにクラッシックを語った人がいない、頼りない寄せ集めの「知識」しか見当たらないのが不幸だといえます、

バーチャル:リアルの比率のおかしさが、「当たり前」のことを忘れさせたのでしょうか、バーチャルは崩れだすと早いと思います、




ビスポークというのは、愉しい、面白い、そうでなきゃいけない、魅了するようなテーラーでありたいなと思います、生憎、我がアトリエにはブロンド美人はおりませんが、、、、でも、ホントはそばにいると愉しいだろうなあ、、、









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by momotosedo | 2008-11-01 23:33 | ■最高のスーツ

11月1日(晴天)  最高のスーツ2





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(つづき)

随分、大げさじゃないかと思いつつ、私はアトリエを再訪することにした、、、


ブロンドのミステリアスな笑顔に迎えられ、ホントは彼女と少しよもやま話の二言三言でも交わしたかったが、
待ち構えていたテーラー氏とアトリエの職人さん、二人がかりに取り囲まれてしまいブロンドに未練を残しつつも仮縫いがはじまる、
先ずは、トラウザーズをはき、職人さんに前をピンで留めてもらう、私はいつもブレイシーズを愛用しているので、トラウザーズの後ろは昔風のウイングの形をしていて趣深い、
テーラー氏がブレイシーズを調整しながら、「このブレイシーズを、これにもお使いのご予定で、」と聞く、うなづくと、では調整しておきましょうと、金具がちょうど具合の良い位置にくる場所にピンを打ち、後でお預けいただければ適当な長さに調整しておきますと云う、

テーラー氏はブラシを手にあらゆる矛盾を指摘しそれをこちらに伝えながら、職人さんはそれをテキパキとピンで補正していく、
「本縫いのときには、ふくろはぎのところをもっとアイロンでかたちをとっていきますから、」とテーラー氏、私は、ハイスクールのときに山に登るのを趣味としていたので、ふくろはぎが発達しているのだ、
テーラー氏がうやうやしくダブルのウエストコートを着せてくれる、トラウザーズとウエストコートを合わせると、なかなかクラッシックな姿が現れて、このツイードを選んで良かったなと思う、グレーとグリーンの濃淡の杉綾に微かに綺麗なパープルの細いウインドウペインが潜んでいるのも奥ゆかしい、


ウエストコートも身体に合わせてシェイプされている、胸まわりなどやはりテーラー氏が細かく補正を行い、特にトラウザーズとウエストコートの一体化した流れに注意が払われる、「英国のものと違って、当店ではウエストコートのラペルにもビンテージのアルパカを芯地に使って立体感のある返りをつくるようにしております、、」と話しながら、ウエストコートの補正が終わったテーラー氏は上着をきせてくれる、


ふたつボタンにした上着には、シーチングで模られたボタンとハーフムーンポケットがピンで留められていて、出来上がりのデイテイールがイメージできる、こうして3つ揃いで着るとクラッシックなツイードがいかにエレガントであるかが改めてわかった、それに仮縫いにしては、すでに形が出来ている、美しいのだ、

しかし、テーラー氏は満足していないようで、様々な指示を職人さんに矢継ぎ早に出していく、それに加えて、肩のパッドは、もっと綿を抜いてなで肩にすることや、肩甲骨のくぼみを想定した肩のラインの補正、ウエストの絞りも、サイドだけでなく、胸のふくらみをつけながらもそこから削るように縫っていくことなど縫いの指定も始めた、



テーラー氏は、冗談を交えながら私をリラックスさせて、つい鏡の前ではよそ行きの姿勢をしてしまう私をいつもどおりの立ち居振る舞いに戻す、それどころか少し厚手の生地なので、店の階段を上り下りしてみてくださいと、生地の抵抗をチェックしたりする、私は階下の鏡から、階上の鏡へと知らないうちに移動させられ、動かされ、そのたびにテーラー氏と職人さんは、私の動きにあわせてスーツの補正を話し合っている、

愛らしいブロンドが、「お茶の時間です」と中国茶を持って現れる、美人に振るまわれる茶ほど嬉しいものはない、私は仮縫い服のまま椅子にすわり、一口含んだ、オヤ、前とは味わいが違う、「今日は、特別な烏龍茶が手にはいりましたので、、」、愛(う)いヤツ、、と一言かけようと思ったすきもあらばこそ、テーラー氏が座ったときの肩のラインについて職人さんに指示を出し、ピンをかざした職人さんが飛び掛ってきた、



こうして、瞬く間に小一時間が過ぎ、
テーラー氏は「念のため、もう一度仮縫いをいたしましょう、ところで、ご自身でこのスーツの出来上がりに何かイメージなどおありでしょうか、」、と問うた、私はつい思いつきで、「、、マハラジャの豪華さかな、、」と云ってひとりでクスクス笑ったが、テーラー氏と職人さんが顔をあわせて真面目に悩みはじめたので、慌てて冗談だとうち消さなければいけなかった、

仮縫い服を脱ぎ、ブロンドに後ろ髪をひかれながらも、アトリエを辞す、そうそう、次からは「鷹」は止めてください、普通に電話かメールで結構とつけ加えると、テーラー氏は、やや不服そうに口を窄(すぼ)めた、


、、、こうして何回かの仮縫いと、中縫いが終わり、あとはスーツの完成を待つのみとなった、、、、




或る日、庭の落ち葉をかき集めながら、昔は、冬の始まりには近所でも落ち葉炊きがあったなあと懐かしくシミジミしていると、

突然、ビュンという低い唸りとともに、自慢の庭の木の幹に矢が突きささった、目をヒンむいて驚いている私は、しかしその矢に矢文が結ばれているのに気づいた、それを開くと、やはり達筆で、「ご注文のスーツが出来上がりました、ご都合の良い日にお越し下さい、、」とテーラー氏からの知らせだった、、、こんどは矢文か、、ところで、この木は、樹齢100年を誇る、区の保護樹林にも指定されている自慢の木なんですけど、私は、慌てて出入りの植木屋に電話を架けるべく母屋に急いだ、、、



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by momotosedo | 2008-11-01 18:19 | ■最高のスーツ

10月31日  最高のスーツ



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スーツで思い出しましたが、この間、取材で面白い質問を聞かれました、「ところで、椛川さんにとって最高のスーツとはなんでしょう?」、

これが、何年か前なら、スーパー200のパシュミナのごく柔らかい仕立ての、、、てなことを云う人がいそうですが、私の考えはもとより違います、


これは、私の体験から言いますが、先ず「そのテーラーが面白い」ことです、

ビスポークは生地選びからはじまって、スタイルの相談、仮縫いとどうしても「付き合い」が生じますから、話していて面白いテーラーじゃないと信頼もできないし、続きません、
スーツはどうでも良いと言っているのではありません、ビスポークのスーツというのは、テーラーをも含めたもので、だからクセになるし、良いものが出来上がるのです、ビスポークスーツは、生涯着るべきものですから、そのメインテナンスもあります、


では、「面白い」というのはどういうことか、先ず、私は良いスーツが欲しい、そして、ビスポークすることによって、ストレス発散、できれば明日の活力、元気をもらいたい、

先ず、生地はうなるほど持っていてほしい、それも、熟成したクラレットのように各年代の優れものが揃っていて、時には、こんなものもありますと、棚の奥から秘密めいて逸品がでてきたりするのがヨロシイ、現行のバンチしかもっていないのは問題外ですね、前にも云ったかもしれませんが、バンチというのは選んでいる姿も何か貧相でイヤなんです、


それで、その生地たちが目の前で次々にサっと広げられる、手のなかで溶けてしまいそうなカシミア、逆にタイトに織られたビンテージの絵画のように美しいツイード、、、良いですね、良い生地をみるのはそれだけで愉しい、

採寸も終わった、生地も迷ったあげくビンテージのタイトに織られているが、アルパカが混ざって驚くほど柔らかいツイードに決めた、さあ、次はスタイルの相談です、ここでテーラー氏は、「生地を見続けてお疲れでしょう、まあ一服いたしましょう、」と拍手をポンポンとうつと、ぴったりしたチャイナドレスに身を包んだグレース・ケリー似のブロンドが、中国茶の一式を掲げてどこからか現れる、「最初は香りだけお味わいください、」とか、ブロンドが手づから入れてくれる奥深い茶を味わいながら、「実は、あのツイードはスコットランドのある一軒の家の屋根裏に眠っておりまして、、、」と、ツイードを手にいれた冒険譚を、テーラー氏が語り始める、、ふむふむと、その面白い語り口に引き込まれている間に、話はいつのまにかスーツのスタイルになっていて、シングルのウエストコートも良いけれど、ダブルのウエストコートを合わせるのも味わい深いものです、ポケットもハーフムーンで、そうそう、うちのハーフムーンポケットは、今のものと違って古のスタイルを守っています、、、などと、スタイルが自然に決まっていく、最後にサラサラとテーラー氏はスケッチを描き、私は、ツイードスーツでありながらエレガントともいえるスタイルに期待に胸ふくらませながらアトリエを辞す、



それからしばらくたって、庭でバサバサという音がするのに驚いて、何事かと思って覗くと、木の枝に小さな王冠をかぶった鷹が一羽とまっていて、鋭くこちらを見つめて私を確認すると、またたく間に、飛び去っていってしまった、あっけにとられて、区の保安課にでも電話しようかと思っていると、木の下に一通の封筒が落ちているのに気づいた、拾って、朱の紋章入りの封蝋をきると、達筆で、あのテーラーから、仮縫いができました、いつでもお越し下さいとしたためてある、

随分、大げさじゃないかと思いつつ、私はアトリエを再訪することにした、



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by momotosedo | 2008-10-31 01:49 | ■最高のスーツ